政策提言とファンドの両輪で貧困削減に取り組む:Fair By Design Fund
100年以上にわたって社会正義と平等の問題に取り組んでいる財団のBarrow Cadbury Trustは、休眠預金のBSC(Better Society Capital)などと協力し、10年で「貧困プレミアム」を撲滅するためにシステムを変革するキャンペーン「FAIR BY DESIGN」を立ち上げました。
今回紹介するFair By Design Fundは、このビジネス領域の取り組みの一環としてベンチャーキャピタルのAscensionと協働で立ち上げられたものです。
規制・社会政策・ビジネス創出を組み合わせてシステム変革に挑む
FAIR BY DESIGN キャンペーンが公表した2022から2027年の5年計画では、2028年までに「貧困プレミアム」を撲滅することがミッションとして掲げられ、規制当局(Regulators)、社会政策(Social Policy)、ビジネス(Businesses)の3つを重点的な活動領域として取り組みを進めることが宣言されています。
貧困プレミアムとは
英国では推定で1,430万人(人口の22%)が貧困層に属しており、この層の人々は金銭的に恵まれた人々と同じ商品やサービスを購入する際、貧困であるが故の追加的なコスト負担を強いられているという指摘があります。この追加的なコストのことを貧困プレミアム(Poverty Premium)といい、ブリストル大学はこのプレミアムの金額を年間平均で490ポンド(約9万円)以上と試算しました。一部の低所得世帯は年間2,250ポンド(約42万円)以上を支払うこともあるようです。
貧困プレミアムの具体的な内容としては、水道光熱費の月額プランに入ることが出来ずに割高な都度払いしか選択肢がない、クレジットスコアが低いためお金を借りる際により多くの利息を払う、洗濯機を購入できないため割高なコインランドリーに通う等が挙げられます。
プレミアムの種類毎の年間貧困プレミアムの割合
Fair By Design Fundとは?
Fair By Design Fundは、Fair By Designキャンペーンの一環として、貧困プレミアムはデジタルテクノロジーの活用によって解決することができるとの考えをベースとして設立されたファンドです。
同ファンドはキャンペーンと同様に、「2028年までに貧困プレミアム(Poverty Premium)を撲滅する」という具体的な目標を掲げています。この目標に対して、個別社の投資が貧困プレミアムの軽減にどの程度貢献しているのか等の測定には、ブリストル大学の研究が活用されています。
BSCは、VCにおけるインパクトのベストプラクティスの1つとして、同ファンドを紹介しています。インパクト投資の観点から特に際立つ特徴として、以下の2点を挙げています。
明確で測定可能なインパクト目標「2028年までに貧困プレミアムを撲滅する」
その目標を達成するための、エビデンスと学術研究に裏付けられた投資戦略
また、Toynbee Hallとのパートナーシップのもとで、貧困の実体験を持つ個人をデューデリジェンス・プロセスに参加させる「実体験パネル(Lived Experience Panel)」を設置し、投資委員会に投資候補を提出する前に、投資先候補はその製品をパネルに提示し、彼らがその製品が問題解決に有意義であると考えるかどうかのフィードバックを提供。このフィードバックが投資委員会で共有されることにより、インパクトに関するより多くの情報に基づいた意思決定につながっているとのことです。
投資家層はBSCや財団、チャリティーが中心
同ファンドの主な投資家は以下のとおりです。休眠預金のBSC、財団、チャリティーなどがこのファンドの設立を支えていることがわかります。
エグジットケーススタディ:Credit Kudos
Fair By Design FundのエグジットケーススタディとしてCredit Kudosの事例をご紹介します。
以上、英国の特徴あるファンドの一つを紹介しました。
※1GBP=187円で円換算(2024/9/10現在)。
※本記事の内容は2024年2月時点の情報に基づき作成しています。
本記事のリサーチ:城守鈴果氏
新卒で三井住友銀行にて融資・貿易金融等を経験後、2020年英国へ移住。米銀勤務ののち、インパクト投資へのキャリアシフトのため英On Purpose Associateプログラムへ参加。老舗社会的インパクト投資ファンドのBig Issue Invest、The Social Investment Consultancyに半年ずつ勤務先、現在は英国老舗チャリティーにてヘルスケアベンチャーへのインパクト投資業務に従事。
記事構成・編集:JANPIA出資事業部note編集チーム