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超初期のインパクトスタートアップへの投資に伴うリスクをどう低減するか?:Bethnal Green Ventures

社会的課題の解決に挑む超初期のスタートアップに投資を行う際には、そのリスクの高さが課題になります。社会環境課題の領域を分散することでこのリスクを低減しているのが、今回紹介する英国のBethnal Green Venturesです。

同社は、英国インパクト投資業界において 10年以上アクセラレーターを運営し、プレシード期に株式投資している唯一のファンドを運営しています。


Bethnal Green Venturesとは?

(出所)Bethnal Green Venturesのウェブサイトより作成

Bethnal Green Venturesは、Tech For Good(※)を掲げ、幅広い業種のベンチャーを対象に6週間のアクセラレータープログラムを年に2回運営しています。そして、アクセラレーターに合格した企業すべてに、株式7%と交換にGBP60k(約1,122万円)の投資を行っています。
※Tech For Goodとは、社会環境問題に挑むためにテクノロジーが導入される分野を表す言葉で幅広い概念を含みます。

2019年4月にはGBP3m(約5.6億円)規模のファンドをクローズし、2024年2月には新ファンドをGBP33m(約62億円)でファーストクローズ(目標GBP50m、約93億円)しました。今後4年間で100社のベンチャーを支援する計画です。

多様な業界の160社以上に投資することでファンドを成功に導く

CEOのPaul Miller氏に直接お話しを伺うことができました。

Paul Miller氏

CEOのPaul Miller氏へのインタビュー

ーーファンドの成り立ちについて教えてください。

Paul:2008年に「Social Innovation Camps」を運営したのが始まりです。のちに週末ハッカソンとなり、社会・環境課題解決にコミットした個人が集まる場所となりました。参加者から「どうやって本業をやめてスタートアップにコミットしたらいいのか」という声が上がるようになり、当時米国で流行りはじめていたアクセラレーターの形を取ることを思いついたのです。2012年にBGVはNestaの支援を受け、ヨーロッパで初めてのTech For Goodアクセラレーターを立ち上げました。
社会起業家関連の国の助成金であるSocial Incubator Fund(3年半でGBP1m、約1.9億円)とテック系財団から合計GBP2m(約3.7億円)の投資を受けて、運営費を確保し実績を積み上げました。2016年に初めてBSC、個人投資家や財団からの資金を受けてファーストファンドをクローズしました。
2019年に大規模な資金調達を試みるも、実績不足との声を複数受け、またも目標額に達することができなかったのですが、2024年2月に見事目標額GBP50m(約93億円)を見据えたGBP33m(約61億円)でのファーストクローズに成功しました。

ーーGBP33mは英国のインパクト業界で大きな金額ですね!

Paul:プレシードをターゲットにしたファンドとして、やっと規模の経済が働くサイズでのファンドがクローズできました。小規模VCとしてやっていたのはあくまでこの規模のファンドをいずれ立ち上げるため。ここに来るまで、複数の(伝統的な)VCからメンタリングをしてもらったことが非常に役に立ちました。メンタル面ではもちろん、具体的なアドバイスも助けとなりました。

ーーメンタリングで受けたアドバイスとは、具体的にはどのような内容だったのですか?

Paul:BGVでは投資実行時にインパクト投資家ならではのユニークな条項など(※)は付けず、あくまで普通のVCの顔をして投資しながらインパクトへの理解が深い投資家になるように心がけた方が良いとのアドバイスをいただきました。プレシードでの投資をしているので、後の資金調達で投資先企業にとって説明の手間などがなくシンプルな投資家であるように心がけています。
(※)アセットロックが代表的。アセットロックとは、社会的企業によく見られるが、会社の利益の一定数以上が会社の将来のために投資される、すなわち経営陣の懐に特別に多く入ることはない、など。

ーー直近のラウンドでは伝統的な投資家も入ってきていますが、何か資金調達戦略を変えたのでしょうか?

Paul:自分たちは何も変えておらず、世の中が変わってきたと思っています。昔から自分たちはTech For Good、インパクトビジネスもちゃんと儲かることを証明すると言ってきました。当初はBSCや個人、財団などインパクトへの理解が厚い投資家にのみ支えらていましたが、10年以上アクセラレーターを運営し複数のエグジットも経験したことで、やっと伝統的な投資家が投資してくれるようになったのです。

ーーこれまで160社以上を支援、投資先の業界が多様であることが印象的です。

Paul:プレシードなのでとにかく多様な業界に分散投資することを意識しています。2012年の国の助成金を受けたアクセラレーターは5団体ありましたが、最終的に生き残ったのはBGVだけでした。他はどこも特定の分野に特化していました。
アクセラレーターは起業の最初の段階で関わり投資し、10年後社会がどうなっているかは正直誰にもわかりません。BGVは多様な業界に投資したことでここまで生き残ってこられたと考えています。

ーー伴走支援は6週間ということですが、どんなことをやっているのでしょうか?

Paul:BGVのアクセラレーターは対外的には6週間と言っていますが、それはあくまでオンボーディング期間であり、会社形態や投資の受け方など本当に基礎について伝えて教える期間。そのあともハンズオンでどんな困りごとも相談してもらうような関わり方をしています。卒業生も多いのでコミュニティが支えている面も多くあると思います。

ーー幅広い業界の起業家を見抜き育てる選考過程で意識していることはありますか?

Paul:アクセラレーターへの選考過程では、ビジネスモデルがインパクトの創出に直接紐づいていることを必ず意識しています。そうすることにより、事業が拡大してもインパクトファンドとしてのBGVのコンセプトとミスマッチが生じないようにしています。(編集補足:ロビンフッドモデルのような、ある事業で稼いだ収益を別の社会貢献活動の活動資金に回すスタイルの会社には投資していないとのこと。)

エグジットケーススタディ:Fairphone

Bethnal Green VenturesのエグジットケーススタディとしてFairphoneの事例をご紹介します。

※Fairphoneのウェブサイトプレスリリース、BGVとの個別インタビューより作成

画像引用:https://www.fairphone.com/

投資額:非公開
エグジット:セカンダリーマーケット

携帯電話製造メーカー、BGVのアクセラレーター出身。BGVは2012年の設立当初に投資。
当社は2023年1月に ABN AMRO sustainable impact Fund(ヨーロッパの大手金融機関グループのインパクトファンド)をリード投資家として3つのインパクトファンドがシリーズB(総額EUR49m/評価額非公開)の資金調達を実施。BGVはこのタイミングでエグジットしたと見られている。「インパクトの面からも信頼できるファームでありエグジットに妥当なタイミングだと考えた」とのこと。このラウンドでは、会社設立当初のクラウドファンディングによる100名以上の株主やpymwymic(インパクト投資をしたい個人投資家が共同投資する欧州ファンド)など複数の株主がエグジットしており、インパクト投資のエグジット事例として興味深い。

社会課題:エシカルで環境にやさしい携帯電話端末が世の中に少ない。

事業内容:紛争の原因になる鉱物や環境負荷の高いパーツを最小限にした携帯電話端末の生産。

その他:当初は鉱物にまつわる紛争の啓発キャンペーンとして始まった団体。反響の大きさから、クラウドファンディングを行うと2万5000人から反響があり事業として転換させることになった。携帯端末の修理パーツも販売し、長く使える端末を意識して生産。2023年時点、ヨーロッパ中で40万人以上が当社端末を使っている。


以上、英国の特徴あるファンドの一つを紹介しました。

※1GBP=187円で円換算(2024/9/10現在)。
※本記事の内容は2024年2月時点の情報に基づき作成しています。


本記事のリサーチ:城守鈴果氏
新卒で三井住友銀行にて融資・貿易金融等を経験後、2020年英国へ移住。米銀勤務ののち、インパクト投資へのキャリアシフトのため英On Purpose Associateプログラムへ参加。老舗社会的インパクト投資ファンドのBig Issue Invest、The Social Investment Consultancyに半年ずつ勤務先、現在は英国老舗チャリティーにてヘルスケアベンチャーへのインパクト投資業務に従事。

記事構成・編集:JANPIA出資事業部note編集チーム



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